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VercelもSupabaseも無料で使える理由——PLGモデルという視点

VercelもSupabaseも無料で使える理由——PLGモデルという視点

Vercel で Next.js アプリをデプロイする。Supabase で認証とDBを立てる。Resend でトランザクションメールを送る。

全部無料で始まる。

しばらく使っていると、ふとした疑問が浮かぶ。

「なぜこんなに太っ腹なんだろう?」

これを気にせずに使い続けている人は多いけれど、仕組みを理解してから使うのとそうでないのとでは、ツール選定の判断軸がかなり変わってくる。


ビジネスモデルを「知らずに」使っていた

個人開発を始めた頃、自分はこう思っていた。

「みんな使ってるから Vercel にした」「Supabase の PostgreSQL が使いやすいから選んだ」

それ自体は正しい判断だと思う。でも「なぜ無料なのか」は考えていなかった。

この問いの答えは、Developer Infrastructure と呼ばれる業界のビジネスモデルを知ると一気に整理される。


クラウドインフラには「2つの層」がある

まず整理から始める。クラウドインフラの世界は、大きく2つの層に分かれている。

クラウドインフラ業界
│
├── ハイパースケーラー
│     AWS / Google Cloud / Microsoft Azure
│     └── 何でもできる・高機能・高コスト・設定が複雑
│           導入に専任エンジニアが必要な規模感
│
└── Developer Infrastructure(特化型)← 個人開発者の主戦場
      └── 特定の機能に特化・無料枠が広い・設定がシンプル
            Vercel / Cloudflare / Supabase / Resend など

ハイパースケーラーは「企業向け」の世界だ。何でもできる代わりに複雑で、最初からコストがかかる。専任のインフラエンジニアがいないと使いこなしにくい。

一方、Developer Infrastructure(開発者向けインフラ)は特定の機能に特化した SaaS 群で、「無料で試せる」「pushするだけでデプロイできる」「ドキュメントが開発者に優しい」という特徴を持つ。

個人開発者やスタートアップにとって、2020年代の主戦場はこちらの層だ。


PLG(Product-Led Growth)という構造

「なぜ無料なのか」の答えが、PLG(Product-Led Growth) というビジネスモデルだ。

簡単に言うと、こういう仕組みになっている:

① 個人開発者・学生に無料で使わせる
         ↓
② 開発者が使い慣れる・気に入る・ブログで紹介する
         ↓
③ その開発者が就職・転職して会社に「これ使いましょう」と提案する
         ↓
④ 企業向けプランで一気に収益化

Vercel の本当の顧客は、Hobby プランの個人開発者ではなく、Vercel を使い慣れた開発者を採用した企業だ。

個人に無料で使わせることで、製品の良さを広めてもらい、そのユーザーが企業に潜り込む形で法人顧客を獲得する。

言い換えると——

無料で使っている個人開発者は、ある意味そのサービスの「営業マン」として機能している。

これを知ったとき、少し複雑な気持ちになりつつも、「それでもウィンウィンじゃないか」と思った。こちらは無料でプロダクション品質のインフラを使え、サービス側は将来の法人顧客候補を育てている。


個人開発者にとっての恩恵を整理する

PLG を理解した上で、個人開発者にとっての恩恵を整理すると:

1. 初期費用ほぼゼロでプロダクション品質のインフラが使える

Vercel、Supabase、Cloudflare Workers——これらを組み合わせれば、エンタープライズが使うようなインフラを $0 から始められる。ユーザーが増えて収益が出てから課金が始まる設計になっている。

2. MVPの検証コストが限りなく低い

「作ってみる」→「反応を見る」→「ダメなら止める」というサイクルを、コストを気にせずに回せる。昔は VPS を借りて設定して……というステップが必要だったが、今は push するだけでデプロイが完了する。

3. スタックの選定で「業界標準」を採用できる

PLG で広まったサービスは、ドキュメントが充実し、コミュニティが大きく、バグも早く直る。「みんなが使っているから安全」という判断が、実は PLG の結果でもある。


Developer Infrastructure の主なカテゴリ

「どんなカテゴリがあるか」を頭に入れておくと、何か作ろうとしたときに「何を選べばいいか」の地図が描きやすくなる。

大まかに分けると、こういうカテゴリが存在する:

  • Hosting / Edge — どこで動かすか(Vercel, Cloudflare Workers, Railway…)
  • Database / Storage — データをどこに置くか(Supabase, Neon, Cloudflare R2…)
  • Auth — 誰が使うかを管理する(Clerk, Auth.js, Supabase Auth…)
  • Email — メールを送る仕組み(Resend, SendGrid, Postmark…)
  • Payments — お金を受け取る(Stripe, Lemon Squeezy, Paddle…)
  • Monitoring — 何が起きているか知る(Sentry, Posthog, Axiom…)
  • CI/CD — コードをどう届けるか(GitHub Actions, Vercel…)

各カテゴリに複数の選択肢があり、「何を選べばいいか」で迷うのが Developer Infrastructure の世界の現実だ。


Vercel と Cloudflare は競合なのか

よく聞かれる(自分も最初は混乱した)のが、「Vercel と Cloudflare はどういう関係なのか」という問いだ。

競合として語られることもあるが、実態は補完関係でもあり、競合でもあるというのが正確だと思う。

Vercel = フロントエンドのホスティングが得意
          (もともと Next.js を作った会社。デプロイ体験に特化)

Cloudflare = CDN・エッジコンピューティングが得意
              (もともと DDoS 対策の会社。インフラ寄りの出自)

フロントエンドを Vercel にホスティングしつつ、軽量な API を Cloudflare Workers で動かす——という組み合わせは相性が良い。一方で、Cloudflare Pages を使えば Vercel の代替にもなる。

「競合か補完か」という問いへの答えは、自分がどちらを起点にするかで決まる


スケール時の現実

PLG の話をすると「じゃあずっと無料で使えるのか」と思う人もいる。

正直に言うと、ユーザーが増えると課金が発生してくる。大まかな感覚として:

  • 月間 ~1,000 ユーザー規模:各サービスの無料枠内でほぼ収まる
  • 月間 ~10,000 ユーザー規模:Vercel の有料プランなど、月数千円〜数万円が必要になってくる

ただし重要なのは、収益が先に出る設計にしておけば、インフラコストは後からついてくる問題だということだ。

スケールの悩みは嬉しい悩みで、そこまで来たら課金できるだけの売上があるはず。最初から気にしすぎる必要はない。


個人開発者に今すぐ役立てられること

この話を整理していて思ったのは、ツールの名前を知るより、カテゴリ構造を理解する方が長持ちする知識だということだ。

新しいサービスは毎月のように出てくるが、「認証カテゴリの選択肢が一つ増えた」「Storage は今 R2 が熱い」という読み方ができるようになると、情報の取捨選択がずっと楽になる。

PLG を知った上でサービスを使うと「このサービスは開発者をどう囲い込もうとしているのか」が見えてくる。それが良い/悪いという話ではなく、ビジネスの構造を理解した上で使えるかどうかが、長期的には差になる。


もし全体像を一度に把握したければ

この記事では PLG モデルとカテゴリ構造の概観を書いたけれど、「各サービスを横断して比較したい」「推奨スタックを段階別に知りたい」という場合は、もう少し細かく掘り下げた内容を別途まとめている。

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